Posting on 3 Nov. '14 BLOG

楽器と奏者の関係はとても密接だ。奏者が希望する楽曲の解釈と演奏スタイルに対して楽器が応えてくれれば良いが、楽器の個性に合わない弾き方であると、奏者は音の安定を保つために苦労し、また楽器にとっては決してベストの状態を引き出してもらえないことになる。演奏とは、楽器と相談し合ってひとつの音楽を作る、いわば相棒となる奏者と楽器とのコラボレーションである。
さて3日間にわたって開催された弦楽器フェアで、僕は32挺のヴァイオリンを弾かせていただいた。コンサート当日に写真のとおり楽器と演奏曲を組み合わせる。製作者から曲の希望を伺ったり、音を出してみて楽器から「この曲を弾いて!」という声を感じ取ったり。ここで1挺につき掛ける時間は1分程度。少しでも早く各ブースに楽器を戻して、ご来場の方たちに見て弾いてもらわなくてはならない。だからもちろんコンサート前も一切僕が楽器たちを鳴らすことはなく、冒頭書いた事柄をステージ上で初めて行なうことになる。演奏前に「お互いにがんばろう」と楽器に語りかけることしか出来ないが、それでも楽器たちは精一杯美しい声を出そうとする。製作者の思いが込められた楽器にとってそこは晴れの舞台。愛娘さんが良い所に嫁いで行けるようお手伝いをする僕は責任重大だ。いつかはきっと誰かの愛器となる32挺、1挺ごとが持つ音と個性は僕の中で記憶として残ってゆく。たとえ僅かな時間でも、楽器たちとは大変密度の濃い触れ合いだったから終わってしまうと寂しい。
このフェアにご来場の皆様、忙しいなか曲数も多く大変だったピアニスト・佐藤勝重さん、そしてスタッフの皆様に心から感謝いたします。